かなたはて

とりとめもないこと。

【レビュー】『流れる固体』レオロジーの考え方が分かる本

中川鶴太郎『流れる固体』岩波書店

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【目次】

はじめに ーものの流れと変形ー

第1章 曲げた棒はなぜもどるのか ー弾性の話ー

第2章 ゴムはなぜあんなに伸びるのか ーゴムの弾性は気体の圧力に似ている

第3章 かきまわした水はなぜ止まるのか ー粘性の話ー

第4章 おかしな流れのいろいろ ー振ると溶ける液体、成型できる液体、ひびわれする液体ー

第5章 流れる固体 ー氷河は流れる、岩も流れるー

第6章 弾性のある液体の話 ーはねもどる液体、糸をひく液体、はい上がる液体ー

第7章 バネとピストンの仕掛け ー模型で考えるのは便利なことだー

第8章 絹糸はどうしてできるのか ーカイコは糸をはくのではなくて、引き出すのだ。クモの糸も同じー

第9章 粘液は何のためにあるのか ー卵の白身は黄身のゆりかごー

おわりに ーレオロジーとは何かー

あとがき ーおとなの読者へー

索引 

 

【感想】

  レオロジーを学び始めるのに非常におすすめの本。元々は、今で言うブルーバックスのように、一般向けに書かれたレオロジーの啓蒙書らしい。一般向けと言っても内容に誤魔化しはなく、きちんと書かれた良い本だった。

 本書では序盤で、固体弾性、液体粘性、気体粘性の起源を分子レベルで定性的に説明している。中盤では、粘弾性流体の挙動の原理を解説し、フォークトモデルやマクスウェルモデルを用いて実現象を解析する手法に触れられている。そして、終盤においては、これまでに解説してきた事柄を使って、絹糸や卵などの身近な粘弾性液体の挙動が説明されている。

 本書は、アマニ油(粘弾性液体)や水飴(ニュートン流体)、アスファルト(粘弾性固体)などの身近なモノの考察から始まり、その流れのまま自然に、分子レベルでの挙動や粘弾性モデルの解説に入る。そのため、すんなりとレオロジーの考え方が頭に入ってくる。全編を通して難解な言葉を使わず、平易な例を挙げているため、非常にわかりやすい。

 グラフは出てくるが、数式はほとんど出てこないので 初学者にぴったりだと思う。『レオロジー基礎論』の前に読むと良い。ただ、残念ながら絶版のため、図書館や古本屋で手に入れるしかない。

 ちなみに、著者の中川鶴太郎氏は『レオロジー』という題名で、みすず書房岩波書店からそれぞれ参考書を出版している。みすず書房版は500ページを超える大部でレオロジーに関する様々なことを取り扱っている。